『ドアをノックするのは誰?』/鳩村衣杏

ドアをノックするのは誰? (二見シャレード文庫 は 3-6) (二見シャレード文庫 は 3-6)

ドアをノックするのは誰? (二見シャレード文庫 は 3-6) (二見シャレード文庫 は 3-6)

甲田は大学助教授だが、かなりの遊び人。興味本位で美貌のサラリーマン・頼久に交際を申し込む。しかし思いがけないほどあっさりとOKが出て、トントン拍子に同居生活が始まると、すべてを捧げて尽くしてくれる頼久に甲田はメロメロに。そんなある日、甲田の別れたはずのセックスフレンドが家に乗り込んでくるが頼久は怒らず、その上“浮気のススメ”まで持ち出されてしまう。三歩下がって、三つ指突いて、女遊びに文句ひとつ言わず、家を守る――『妻の鑑』のようでありながら、スルリと腕をすり抜けていく頼久に、甲田の心中は複雑で…。「君は天使なのか、悪魔なのか…?」両想いなのに、何かがどんどんズレていく!?
ちょっとおかしくて切ない大人の恋物語。(amazonより転載)

面白かった!感動した!後半、若干涙した。最近涙もろい…。

周囲の評判がよいので手に取った作品でしたが、すごくよかったです。事前に高評価をチェックして読む場合、作品のハードルを無駄に上げてしまうので作者に申し訳ないんですけど、これは本当に面白いと思いました。鳩村衣杏先生のあとがきお決まりのフレーズ「小説の神様」に対する違和感も気にならないくらい、読んでいてわくわく楽しい小説でした。

なぜ私がこの小説を好きかというと、きっと、登場人物それぞれの心に葛藤があったから。しかもその葛藤がふしぎな共感を呼ぶんです。これまで遊び人をとおしてきた攻の甲田さん。誰かを束縛したい、束縛されたいという初めての欲求に戸惑う姿が非常に人間くさく可愛らしいです。また、自分の気持ちにまったく応えてくれない相手に対して焦燥する様も、コミカルなんだけどどこか切ない。実に絶妙な描かれ方なのです。

受・頼久の心の変化の描かれ方もとても自然です。一見するとボーイズラブ小説によくあるただのトラウマ受のようなのですが、その心の傷が解放されるまでのステップに説得力があって素敵。攻の台詞、「君がそういう女性に育てたんだよ」に涙。泣ける。

トラウマ受の登場するボーイズラブというと、受の変化、成長のみにスポットをあてているものが多いと思うのです。そういう話ではたいてい、スーパーマンみたいな完璧なヒーロー攻が「きみはだいじょうぶ、なぜなら僕は君のすべてを愛しているから…君はどこもかしこみきれいだ…さぁ思うさま僕に愛させておくれ」みたいな赤面ものの台詞を吐きつつ受たんを優しく奪い、素質はA級な受たんが開花して感動的かつ淫らな初夜を迎えて大満足、というのがパターンだと思います(たぶん)。この話は攻視点もうまく盛り込まれて、攻自身にも変化、成長があったのが、とにかく好感の持てる点かなと思いました。この攻はかっこいいけど、ステレオタイプの「かっこいい攻」ではないですよね。「あ、帰らなきゃ」(このシーン笑いました)なんて、尻に敷かれてちょっと情けない。でもその情けなさこそ、読者は愛せるんです。


ところどころ攻の台詞がカユいですが、受の台詞も芝居がかっているので相殺されてむしろちょうどいい按配です。
総じてよかった!感動した!
大人の女性に読んで欲しい、上質のボーイズラブだと思いました。個人的にとても好きな作品なので、殿堂入りするかもしれません。