『青の軌跡』上・下巻/久能千明

私が大・大・大の苦手とする近未来・SFものです。地に足の着いた男同士の日常すれ違いラブを愛する私にとって、この作品に挑戦することは一種の賭けでした。挿絵の沖麻実也さんの画風もかなり個性的で、ボーイズラブ小説の挿絵師にはクセのなさを求めるこれまでの私は、恐れ多くも少し敬遠している漫画家さんでした。こわごわ内容をひらいてみると、やれΣ-23たらいう殖民惑星に科学者を先導するためのスペースシップがどうのとか、コールドスリープシステムがどうのとかメインコンピュータの稼動システムにバグがどうのとか、純粋な月生まれのヒトは「月人」と呼ばれ万華鏡の瞳(カレイドスコープアイ)を持つエピキュリアンでどうのとか、とにかく苦手なはずのモチーフが目白押し……。も、もうアカン……。ウチ、フツーのリーマン同士のすれ違いラブどか好きなタイプやねん……フツーが一番やねん……宇宙とかわからへん、そんなん……。

と30ページでさじを投げるだろうと考えていたのですが、ところがどっこい、これがページをめくる手が止まらない!おおおおお面白いィィィ!つーか思ったよりも分かりやすかった。大丈夫だった。宇宙、別にそんなにこわいもんじゃなかった。
思うに、カップリングの設定がいちいち正しいからこんなに夢中になって読めたんだと思う。正反対の性質を持つ者同士がコンビとして組まされ、はじめは反発し合いながらもだんだんと互いに惹かれていく……超王道じゃないですか。王道サイコー。傭兵上がりのアウトロー×エリートのマニュアル主義者、王道じゃないですか。カップリングの王道が守られていれば、シチュエーションの多少の難しさは難なくクリアできるということがこのほどわかりました。そんな私はカップリング至上主義者。普通の小説を読むときとは明らかに違う視点でBL作品に接しているんでしょうなぁ。もちろん、小説としてもとても面白いんだけど。カップリングが正しいだけじゃなくて、彼らがお互いを受け入れられるまでの過程がとても丁寧に追われているのもポイントだと思う。ふたりの会話がとても面白い。面白いし、行動理念に納得が行く。ときどきボーイズラブ小説でも「人間とは」というんじゃないですが、その作者さんの物事に対する根本的な考え方がにじみ出ているんだろうな~と思える台詞ってあるじゃないですか。いくらBLがファンタジーとは言え。そういう台詞に納得ができるかどうかって結構私にとっては重要なポイントなんですが、久能先生の小説はそういうポイントが外れないので、読んでいて安心できます。

キャラに関しては、攻キャラの三四郎が好き。サンドラも攻っぽくて良いですが。久能先生の受キャラは割合強気なタイプが多いのですが、ごくたまにしゅんとしおれてしまう瞬間があって、それが私はミョーに好きです。「そ、そんなにしおれないで〜〜〜」とハァハァしてしまう……。

この小説、これからあと9冊くらい続いていて、未だに完結していないみたいです。すごいな。でもこのお話なら確かにネタは尽きなさそうだし、何より受キャラのトラウマの深刻さ加減から言って、5冊や6冊じゃ決着はつかなそう。三四郎とカイはこれからどうなっちゃうんでしょう。楽しみなのです。これから続きを貪り読むのです。でも、前評判を聞くに、どうやら物語は巻数を進めるごとに徐々に徐々に失速していく模様(笑)。続きものって、はじめの2、3冊が一番楽しいんですよね。いや、でも私は久能先生を信じてます(笑)。あとあとがきにおける久能先生と沖先生のやり取り(?)が興味深すぎる。ストーリーを説明して、「これからどうなると思う?」と沖さんに尋ねる久能先生は、なんかすげぇと思いました。本当に三行先は闇状態で執筆されているんでしょうか。

沖先生の挿絵なのですが、いや、久能先生の作風にとても合いますね!というかSFらしい異空間の表現が画風にすごく合う。制服とかも上手い〜。女性も華やかだし良いな〜。久能先生にはこういう線の古いタイプの挿絵師さんが合うんだろうな。この朝日ソノラマっぽい雰囲気がたまりません。沖先生の挿絵には一つ一つ、きちんとサインが入っているのがとても素敵!プロ意識の高さをバシバシ感じます。良いな〜。勢いにまかせて★を5つもつけてみました。小説で★5つつける日は来ないだろうと思っていたんですが、この作品に関してはSFに対し苦手意識があった分、無駄に多く★を進呈したくなる。