お悩み相談室

BLの神様・ポールさん、こんばんは。最近どーしても気になっていることがあって、「これはポールさんの意見をお聞きしなきゃ!」と思い、お便りしました。あの、ボーイズラブ漫画で、ページが30強しかない短編なんだけど、ラブな葛藤やスレ違いを丁寧に描いたりしてる作品があったとするじゃないですか。そーすると、とてもそのページ数じゃ最終形態まで行き着けない場合がありますよね? そういう場合、キスすら無しで終わったりしますよね。「えっ?接触なし?!(ガビーン)」って肩透かしを食らうやおいっ娘って、少なくないと思うんです。現に私にも経験ありますし。ポールさんにもあると思うんです。でもそれって、漫画そのものが物足りない作品である場合に多いことだと思うんです。逆に言うと、一定のレベルを超えた作品に関しては、別に行き着くところまで行き着かなくても、それでいいんじゃないかって。でも、出版社さん側の意向か分りませんが、大抵単行本化されるときって、本編エッチなしの短編には(いや、短編とは限りませんが)書き下ろしでエッチが入りますよね? 私、何だかこれに萎えてしまうんです。「私が求めてるのは必然性とトキメキなの!」と誰にともなく叫びたくなってしまうんです。
気さくに書き下ろしを描いてくれる作家のBL精神は大好きなんです。でも、必然性のない男同士の触れ合いには燃えられない……こんな私はどうすればいいんでしょうか? 「そんな相談されても困る」という返しはナシの方向でお願いします!
(神奈川県・ジョージョー企業より)

ハ〜イ!バーチャルネット女神・ポール801歳よ。ジョージョー企業さんのお悩み、一般論のように言っているけれど妙に具体的ね。さてはそういう漫画を最近読んだのかしら?まあそんなこと、どうでもいいわね。ワタクシの思ったことを書かせていただくわ。
「えっ?接触なし?!(ガビーン)」というのは確かにあるわね。記憶に新しいのがここにも感想を書いた榎田尤利先生の『普通の男』よ。肩透かしすぎてヤケ酒をかっくらったものだわ。あれはあれで良い終わり方だったと今なら思えるのだけれど、あの時のワタクシは少々血気盛んだったのよ。基本的にワタクシは小説が既成事実なく終わると暴動を起こしたくなるのだけれど、これは小説が漫画に比べて一冊に詰めこめる情報量が多いからだと思うの。その分関係の深まりもじっくり書けるわけだから、それなりに濃い展開を求めたいのよね。といっても月村先生のようにリリカルな濡れ場でも私は満足。小説は漫画と比べると長距離走なので、明確なゴールが欲しいだけなのかもしれないわ。幸い『普通の男』は今年続編が出るらしいので今からとても楽しみ。
で、本題は漫画(主に短編)における書き下ろしエッチの必然性ね。確かにBL単行本の裏表紙には良く「二人のラブラブHな後日談書き下ろし付き(はあと)」という文句がギンギラギンにさりげなく踊っている気がするけれど、それに惹かれて本を買ったことは一度もないわね。「後日談書き下ろし」という部分には惹かれるけれど、ラブラブHなんてどうでもいいの。下手なことをやられて今までの世界観を壊されでもしようものなら「俺はお前を身体目当てで好きになったワケじゃねぇ!見損なうな!」と攻になりきって一喝してしまうと思うわ。
ただこの文句が『春を抱いていた』の裏表紙にあったら「新田先生!ごっつぁんです!!」とおいしくいただいてしまう気がするのよ……。ワタクシってば駄目な女ね。これは出来上がりきってる二人のお話だからちょっとジョージョー企業さんのお悩みの趣旨と違ってしまうのかしら。もう一つ例を出してみるわね。実はこのお悩みを読んで最初に浮かんだのが山田ユギ先生の『誰がお前を好きだと言った』の表題作だったのだけれど、あれは書き下ろしで最終形態を描いているじゃない?ワタクシはあの書き下ろしはすごく好きなのよね。これは本編が「さあこれからやりに行くぞ!」ってところで終わっているから良かったんだと思うの。ジョージョー企業さんが言うところの「必然性」があったってワケ。
なんだかまとまりがなくなってきたから、そろそろ結論に行くわね。ぶっちゃけジョージョー企業さんが言うような「ページが30強しかない短編」で「最終形態まで行き着け」ず「書き下ろしでエッチが入」るようなお話がぱっと思いつかないので、なんとも言えないというのが正直なところよ。そもそも貴女、自分で結論を出しているじゃない。「私が求めてるのは必然性とトキメキなの!」って。ワタクシもその通りだと思うわ。
ボーイズラブやおいも大事なのは「いかに納得できるように男同士がラブし合うという不自然な状況に持っていくか」だと思うのよ。男性向けエロはシチュエーションと設定さえハマれば何でも良いって感じだけど、女性はそこに至るまでの過程に必然性がないと萌えられないのよね。貴女が今回のような悩みを持ってしまったのは、結局そこに必然性を付与できなかった作家の力不足が問題だと思うわ。ページ数の関係もあるから一概には言えないのだけれどね。
ワタクシは今回のことでジョージョー企業さんがそんなに悩む必要はないと思っているの。むしろそのこだわりをいつまでも持ち続けて欲しいわ。こだわりのないやおいっ娘なんて勃たない香藤洋二みたいなもの。「一体またどうして!?」と帯になっちゃう程の一大事よ。こだわりを失ったらやおいっ娘なんてやってられないわ。その誇り高い志を持ったまま、どこまでもボーイズラブという名の荒野を突き進んで頂戴。