『黒羽と鵙目』/花郎藤子

黒羽と鵙目 (花丸ノベルズ)

黒羽と鵙目 (花丸ノベルズ)

このシリーズはもはやヤクザものの生ける古典なんじゃないだろうか。花郎先生は好きな作家にレイモンド・チャンドラーを挙げていたけれど、確かにチャンドラーや北方謙三などのハードボイルド小説を思わせるシンプルで硬質な文体である。バーテンダーが出てくるだけでハードボイルド度が3倍くらいに跳ね上がるから不思議だ。


んでねー面白いと思うんだけど、実はそこまで「好き!」とか「萌え!」とか思わないんだよなあ。鵙目たんは腕っ節の強い男らしい受で良いし、黒羽は辛抱たまらん攻だしカラオケ好きだし(マイクを離さない攻ってちょっと好きだ)服や家具の趣味は悪いし良い攻だと思うんだけど……。
理由の一つとして挙げられるのはこの作品が短編集だということ。↓のジョー氏の意見にも通じるのだが、BL(この作品はどちらかといえばJUNEのかほりがする)小説は長編+短編か中編+中編という構成が多く、男たちの仲が出来上がったり深まったりする過程を一つ一つ丁寧に追った上でにゃんにゃんしたりしなかったりするのが楽しいわけで、短編+短編+短編…でこられてもいまいちのめり込めない。ゴールは大事だけど過程はもっと大事だよ。
花郎先生は設定を作り込んで書くことがうまそうな気がするので、とりあえず一作目は長編で書くべきだったのではなかろうか。というか書いて欲しかった!少年院の出会いから始まり、一度は離れ離れになった二人の人生がある大きな事件をきっかけに再び交差するまでを超ハードボイルドなノリで描いてくれたらすごく良かったと思う。でもこの作品って二人の何気ない(くもないが)ラブラブな日常を楽しむタイプの作品なのかなあ。個人的にハードボイルド作品が好きなので、もっとガチガチにハードでもよかったんだけどなあ。そもそもそういう作品だと勝手に思っていたから肩透かしを食ったのだろうな。うむ。


あとがきは黒羽の独白という形を取っている。「あとがきに自キャラを登場させる小説家は痛い」という法則が私の中にはあるのだが、花郎先生の場合痛さはあまり感じなかった。これは作品から透けて見える作者の性格が淡白そうだからだろうか。


それはそうとこのサイズの白泉社のBL単行本(裏表紙に「書店の方へ この単行本は漫画の単行本と同じ大きさです(うろ覚え)」というメッセージが入っている不思議な本)はこのシリーズ以外を書店で見かけないのだが、基本的には絶版なんですかね。月村奎も井村仁美もここから出ていた既刊を別レーベルで出し直していたし。このサイズは本棚に並べやすく手にも馴染みやすい大きさで好きだったので残念である。