『家賃』/月村奎

家賃 (ディアプラス文庫)

家賃 (ディアプラス文庫)

「俺はいいんだよ。俺の二十五の誕生日とおまえの十六の誕生日じゃ重さが全然違うんだから」
初めてこの作家さんの作品を読んだとき、私はまだ学生だった。そのころの私は明らかにこの台詞でいう「おまえ」寄りの年齢だったのに、今ではどう考えても「俺」寄り、すっかり攻サイドに共感する人間になってしまった。ふだん自分の年齢を意識することはあまりないけれど、BL小説の受・攻どちらに共感するかで時の流れの残酷さを痛感することになるとは……。うお〜私も無邪気だったあのころに戻りて〜!!そしてこれくらい包容力のある攻に大事にされて〜〜〜!!!と思ってしまった。

お話は月村先生お得意の、ちょっと家庭の事情が複雑で愛情に飢えた受たんが、攻たんに出会って少しずつ世界の明るさ、温かさを知ってゆく……というようなお話。受たんが元アイドルという少し派手目の設定ながらも、攻たんはじめ、周囲の人々が地に足の着いた大人のかたがたばかりなので、BL小説における派手な設定(金持ち設定、芸能設定など)が苦手な私もすんなりとお話の世界に入り込めた。

月村先生のお話の受たんは、過剰に露悪的で悪いほーに悪いほーに先回りしてものを考えるので、普通なら私はイライラして読めないはずなんだけど、このかたは文章がとても上手で、ストレスがたまるどころか、むしろ「あ〜このままこの文章を永遠に読み続けていたい……」と思うくらいの心地のよさを感じる。なんか言葉の使いかたとかがいちいちぱしっとはまる感じがして読んでいて気持ちがよい。

しかしながら、私の年齢的にちょっと「ディアプラス×高校生主人公のリリカルBL」はつらくなってきたのもたしか。シャイノベルズあたりから年下攻ものなんか書いてくれないかな〜と思ってるんだけど、どうかな〜。いや、すごいいいと思うんだけど月村先生で年下攻って!!!!!百年にいちどの天才的なヒラメキだと思うんだけど。月村先生に似合うのはシャイだと思うんだよね。シャイなら月村先生の作風でもいけると思うのだが……。あと挿絵は梧桐あささんか依田沙江美さんがいいと思う。

ともあれ、期待を裏切らず質の高いよい作品でした。いつにないタイトルのストレートさに若干たじろぎましたが。『家賃』って!あと今回はいつも受たんの名前が女の子っぽい月村先生作品にしては珍しく、攻たんが「遼(はるか)」さん、受たんが「和哉(かずや)」たんといっていつもと逆パターンだったのもよかった。受の名前が女っぽいのはあまり好きじゃない(受だからといっておなごのような名前にする意味がよくわからんため)。




月村先生の年下攻が読みたい(まだ言ってる)。