『さくらのくちびる』/依田沙江美

さくらのくちびる (I'Sコミックス)

さくらのくちびる (I'Sコミックス)

依田沙江美は「結局一番こわいのは幽霊なんかじゃなくて、人間なんだよね……」系のホラー漫画を描くのが巧そうだと思ったら、ちょうどこの本の巻末にそれっぽい話が収録されていて、「ほらやっぱり巧いじゃない」と誰にともなく同意を求めたくなった。
それにしてもこの『さくらのくちびる』はなかなかにパンチのきいた一冊だった。普段の依田先生らしいリリカルポップなノリの作品はあまりなかったように思う。あ、表題作は双子が入れ替わったり、ちょっとポップなノリがあったかも。こーいう一昔前の少女漫画的な発想は好き。ただ、生徒会長さん、鍵かけてやることやってしまったり、やり方がなかなか強引グマイウェイでいらっしゃるので、ちょっと受のさくらちゃんが心配……。
その後に入っている佐紀とゆかりたんの話もなかなかどうして少女漫画的。ちょっとクラスで浮いた存在のコと仲良くなるのに、友人同士でライバル意識が生まれたり、優越感を感じたり、そーいうのってあるよね……。女子校っぽいノリに共感した。
後にも近親相姦モノ(?というほどのものでもないかしら)が続いたり、なかなか濃いラインナップな一冊なのれすが、次に収録されている「白い魚の夢」はバツグンにすげい。こわくてびっくりした。普通のボーイズラブ漫画なら受の男の子を犯してた先生か、受の本命の相手の男の子のどちらかは最低でも格好よく描くと思うんだけど、そうじゃないだけに妙にリアリティーがある。結局太っていてあまり見た目がよくないらしい本命の子は最後まで作中に顔を出さないが、この微妙な演出もこわい。ただ、手法としては巧いと思う。本命が顔を出さないことによって受の涙の不可解さが格段にUP↑。「殺す側は勝手だね?」こえーーー!台詞の末尾に「?」が入ることによって恐怖度が格段にUP↑。クライマックスの化学準備室での受のキレっぷりこえーーー!「痛くないのか?」と聞かれてから「痛い痛い」と言い出したり、最後にはちゃっかりと男の肩にもたれかかって「いたいの……」と言っていたり、この受、清廉なのかただの男狂いなのか、まったくわからんっちゃ。結局後者なのか? 後者なんだよな? はぁ。なんかこわい。
巻末に収録されている話もすごいね……。この占い師、普通にサドなんだろうね。本当にサドなんだろうね。よくBLによくある言葉責めノリノリな「なんちゃってサド」じゃなくて、ほんまモンのサドなんだろうね。こわい……。

全体的にこわくておもしろい一冊だった。絵柄のかわゆさとは裏腹に、相当濃い内容だった。