『秘密のくちづけ』/藭室晶・高緒拾

秘密のくちづけ (JUNEコミックス)

秘密のくちづけ (JUNEコミックス)

登場するオヤジたちの熱を帯びたまなざしがやばすぎる一冊。
今作も濃いラインナップだった。表題作の「秘密のくちづけ」はコメディータッチでフェティシズムを描いた作品。トーサクした変態性愛というよりは、微笑ましい受たんのお気に入りっつー感じの軽いタッチな描写。ただ、もちろん濡れ場の描写はやっぱりそれなりに濃いのだが。続く「恋愛宅急便」は本ラインナップの中ではもっともボーイズっぽい作品。シリアスな展開になりきらず、ほのぼのと終わるところが非常によし。「Sunrise sexpress」は寝台特急のボーイさん(?)がド助平な客(のフリした上司の先輩)と上司に食われてしまう話。男性向けエロコメっぽいノリ。こういう、公共のサービスにエロをからめてくる発想は非常に男性くさいと思う(ex:エレベーターガールとエレベーター内でいたしてしまう、カラオケボックスの店員の女の子とボックス内でいたしてしまうなどのアダルトビデオ的ノリ)。この作者は最終的に「3人で合体」にもつれこまさせずにいられないのだろうか。セクハラ上司の飯島さんの強引なノリが面白すぎる。「one Night Heaven」もスワッピングを題材にしたハジけた一作。4人の男の全裸を1ページまるまる使って描ききる大胆さに惚れた。濡れ場のシーンの構図もよく工夫されていて感心してしまう。
そして残る二作が超ド級のシリアス。「ここまでのノリは一体なんだったんですか?」というくらいのシリアス。まず「侵淫」はモロSMを扱った作品。私なんか「これはこのままゲイコミック誌に載せられるのでは?」と思ってしまうのだが、実際ゲイの人が見たらまた感覚が違うんだろうか。これからこの作品を読む人には、とにかくこのサドの男の深いまなざしをよく見てほしい。そして男のがっちりと太い首。同じ作者の作品でも、先日読んだSMモノでは最後はほのぼのと終わったのだけれど、今作は「快楽に堕ちて行く型」で、なんとも言えないラストだった。本来こういう「堕ちて行く型」の展開は苦手なタイプなので、読んだ後は口紅を丸呑みさせられて胃にもたれてるような、たまらなく重い心持がした。でもこの心地よい不快感が癖になる感じがする。
その後の「ラストソング」は先に読んだ「潮騒」に相通じる空気を持った作品。刑事×殺人犯のピアニストの切な過ぎるラブを丁寧に描いている。切ない恋だぜ、ちくしょう。キスシーンがとても綺麗で泣いた。
そしてカラー口絵がまたしても素晴らしい。匂って来そうな色気があって非常によし。鎖をもつサド男の乳首の色のリアリティーに惚れた。未だかつてBL系コミックでこういう色の乳首は見たことがない。


BL漫画、小説の類には書き下ろしのあとがきなどが非常に多くて、結構作者本人様の人柄に触れられることが多いのだが、この作者様は単行本に「Thanks for reading!」と書いているだけで、素性(というかユニットの役目の割り振り)がまったくわからない。藭室晶先生が原作ご担当で、高緒拾先生が作画ご担当なのかしら? どちらかというとシリアス路線で売った方が人気が出るタイプの作家さんだと思う。コミカルな作品もよいけれど。
調べてみたところ、高緒先生はボーイズラブ小説の挿絵なども担当されている模様。

梔子島に罪は咲く (SHYノベルス)

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