『ビターショコラの挑発』/崎谷はるひ

ビターショコラの挑発 (角川ルビー文庫)

ビターショコラの挑発 (角川ルビー文庫)

主役カポーふたりの余りの盛り上がりぶりに、私ですら若干の戸惑いを覚えた一冊。
といいつつも、はるひてんてーの作品の中ではこれが一番好きかもしれない。主役の義一と玲二は、同じルビー文庫で出ている『ミルククラウンシリーズ』の脇役だそう。私はミルククラウンシリーズは未読なのだが、背景を知らずとも面白く読めた。

はるひてんてーの作品は、「大人がめろめろになっちゃう話」と、「子どもがめろめろになっちゃう話」の2つに大別できると思うんだけど、この話は前者に分類される(ミルクラシリーズはおそらく後者)。
で、大抵は濡れ場になだれこむと結構カンタンにめろめろになっちゃうんだけど、この作品の受は一味違った。「めろめろになるまでここまで踏ん張ったアンタはエラいよ!」というわけで、玲二たんのがんばりに星1コ上乗せ。彼がどれくらいがんばったかというと、実に10年(近く?)ものあいだ、「ほんとうは愛してる(はあと)」と言いたくても言えずに苦しんで生きてきたのだ!

ラスト、ふたりが関係したある事件の解決をきっかけに、余裕綽々でつかめない男・義一の行動原理のすべてが実は玲二に帰結していたことが明かされ、玲二の心のストッパーが取り払われ、めでたく10年分めろめろのぐでんぐでんになるんだけど、ここからがすごかった。えんえん20ページくらい続く濡れ場を最後まで読みきったときには、達成感すら覚えたほど。キミら、盛り上がりすぎ。

でもこの作品の受は割合口調も男っぽくてメカに強くて格好よいし微妙にスレてるし素直じゃないし、なかなかいい感じでした。「玲二」っていう名前もよいしね。攻の「義一」との対比もとれていてよい名だと思う。ジブン、名前重視のやおいっ娘なんでヨロシク。

それにしても崎谷はるひという人は何でもない色恋沙汰をふくらませて描くのが本当にうまい。ちょっとした行き違いを、それこそおおや和美のトーンワークテクニックのように、丁寧かつ華やかに味付けしてしまう。この饒舌な文体に、ついついいつも読まされてしまう。知識の幅も広いし、エロを書くのも苦にならないみたいだし、こういう人がやおい小説家に向いているんだろうなぁ。タイトルの付け方も非常にやおい的なセンスがあると思う。恥ずかしくない程度にバランスよく甘いタイトルをいつもつけている気がする。