『情熱の甘い棘』/和泉桂

情熱の甘い棘 (クリスタル文庫)

情熱の甘い棘 (クリスタル文庫)

ボーイズラブにおける「完璧な攻」は果たして本当に萌えなのかどうかについて、深く考えさせられた一冊。
ポール氏も書いている通り、ボーイズラブ小説として優秀な作品であることは間違いない。文章も読みやすく、設定も人物もきちんと作られていて安心して読める。私が特によかったと思ったのは、初めてふたりが身体の関係を結ぶところ。ここで行き着くところまで行かせなかった作者のバランス感覚がよいと思った。私は強姦から始まる恋は認めたくないタイプなので、こういう展開はうれしい。


ただ、ストーリー展開に安心できる分、「これからどうなっちゃうの?!」というわくわく感に欠けたのも事実。
その原因はオサレなかほりのする攻の完璧ぶりにあるのかも知れない。ボーイズラブの攻として、彼は王道を行き過ぎた。特に濡れ場での多少の言葉責めっぷりなどがそれである。先に感想をあげた『揺れる吐息に〜』ほどではないが、彼は褥においてボーイズラブ的な台詞をはきすぎる傾向があったように思う。言葉責めのみならず、容姿端麗、金満家、バイセクシャルで気障なプレイボーイ。これでもかとボーイズラブ的攻要素が続くのであーる。
しかも挿し絵は蓮川愛


この「完璧」ぶりが、ミーが萌えられなかった原因なのかな、と思った。ただ、ラストに受の不倫相手と勘違いしていた相手に食って掛かるところはびっくりした。好きな人には幸せになってほしい。確かにやほひの行動原理としては正しいが、「自分そういうキャラちゃうやろ」(なぜか関西弁)とつっこみたくなるシーンであった。ここも、意外性というよりはなんだか唐突に感じられたのが残念。いや、でもきっと、彼もいろいろと煮詰まっていたんだろうが……。うーん。よくできている作品なだけに、この萌えられなさを説明するのが難しい。




最後によかった台詞をあげます。

「僕の好きな人は〜年上の人です」(正確には本が手元にないためわからない)

最近自分が「年下攻属性」だという自覚が芽生えたせいか、逆に今回の受青年の「年上の人です」の響きが妙に甘美に感じられた。としうえのひと……。いいね。ここはモエ。
蓮川愛の挿し絵との相性もよく、この作家さんとの出会いの作品ということもあって、星4つ(正確には3.8)でいきます。