『しなやかな熱情』/崎谷はるひ

しなやかな熱情 (幻冬舎ルチル文庫)

しなやかな熱情 (幻冬舎ルチル文庫)

とにかく分厚かった。崎谷先生にとってとても思い入れのある作品であるらしい今作、おそらく書きたいことはすべて書ききられたのでは、と思うくらい分厚かった。萩尾望都先生の小学館文庫で言うと、『マージナル』1巻分に匹敵するくらいの分厚さと考えてもらえればいいと思う。『フラワーフェスティバル』まではいかないにしろ、370ページ越えはボーイズラブ小説としては異例の長さなのでは?
うーん、何と言うか非常にまだるっこしいお話でした。あなたたちどう考えても惹かれあってるじゃん、相性バッチリじゃん、盛り上がってるじゃん、イケばいいじゃん!告げればいいじゃん!飛び込んじゃえばいいジャン!!!と誰にともなく叫びたくなってしまった。けど、要所要所で濃い濡れ場が挿入されるためなんだかんだこの分厚さでも飽きずに読めてしまうのが、ザッツBLマジック、はるひてんてーマジック。私はいわゆるインフォマニア系の受たんは好きではないのだが、この受たんは妙に快活なところがあって必死さが好ましいのでOK。ちょっと薔薇シリーズの彬たんを彷彿とさせる空回り気味の威勢のよさ。攻より四つ年上の刑事さんという設定もよい(私は年下攻スキー&おカタい職業の受スキー)。攻たんは超天才で挫折知らずの(いや、「だった」と過去形にした方が正しいか)芸術家。ワイルドなルックスに反して気遣いは細やかだけど、肝心なところでどうしようもなく不器用。で、むっつりスケベ。非常にはるひてんてーらしい攻キャラさんで、敬語っぷり、料理っぷり、変態っぷりなど超正しい年下攻ぶりを発揮していた。

途中攻が受たんを「刑事さん」と呼ぶのにとても萌えた。「刑事さん」呼び、弱い……。んだけど、基本的に私は誘い受けは苦手……。というか何が何でも初めのきっかけは攻から作ってほしいタイプなので、★は3コで。長野に引っ越すことをあれだけすっぱりと決めておきながら、受たんにその理由を問われてもきちんと想いを告げられなかった攻にはちょっと不満なの。ひどいじゃん。受たん可哀相……。あ、でも引越しの件は「画家としての迷いが吹っ切れた」ってことで、ああいう描写になってるのかな。うーん。話をさせなかった受たんにも罪はあるし……。でもこの擦れ違いっぷりはちょっと納得いかないかなぁ。
あと、これはこの方の作品全部に共通することだけど、「いっそ」という言葉の多用が気になる。言葉の意味からいって、あまり多用すべきではない気がするのだが。

だがしかしバットハウエバー(ある方のまねっこ)、蓮川愛先生の挿絵が相変わらず美しくて華やかで、崎谷先生の作風にもばっちり合っていて、その点は本当に満足!挿絵は相性がとても大事で、崎谷先生にはおおや和美先生や蓮川愛先生などの華やかなタッチの漫画家さんがとても似合うと思う。最近、相性の悪い挿絵はない方がむしろサービスだと思ってしまう……。
作品のなかのシーンでは、終盤でふたりが言い争いになったとき、攻が受たんを平手でぶつのに異常に燃えた!平手だよ、平手(興奮)!平手でぶつ人って、きっとすごく熱くて優しい男だよ!たぶんぐーじゃ殴れないんだよ……。あー胸キュン。よくわからないけど「平手で制裁」には妙に燃えてしまった。
ところで、ルチル文庫の紙の質感やフォントは清潔感があって非常に好感度が高い。幻冬舎文庫は割合安っぽい印象があるけど、ルチル文庫はいいっすね。ルチル文庫の質感最高。ルチル文庫なだけで、シャレード文庫の500倍は買う気になるよ。