『情熱の甘い棘』/和泉桂

情熱の甘い棘 (クリスタル文庫)

情熱の甘い棘 (クリスタル文庫)

ボーイズラブの優等生のような作品。


起承転結がきちんとあり、なんだか物足りないなあと思い始めたころにそれなりの濡れ場が挿入され、キーワードとなる「シェルター」という言葉もウザくならない程度にさりげなく(もないが)使われており、確かどこかでタイトルである「情熱の甘い棘」というフレーズを使った文章も折り込まれていた。きちんとボーイズラブ小説の要所を押さえた優等生的な作品といえるだろう。こういう作品作りをしてくれる作家さんは大抵振り幅が少なく安定した質の作品を提供し続けてくださるので、やおいなしでは生きていけない自分にとって深く頭を垂れずにはいられない存在である。


しかし楽しくすらすら読めるのだが萌えない。何がどう悪いのかさっぱり萌えない。私がボーイズラブに求めているのは「切なさ」と「わくわく感」で、この二つの感情が絶妙なバランスで交じり合うと「萌え」が発動するのだが、この作品にはそのどちらも存在しなかった。それなりに起伏のある物語だったにも関わらず、こちらの感情は妙に淡々としたままで、終わるときも「なるほどね」と無駄にクールなノリで読み終えてしまった。決してつまらないわけじゃない。キャラクターも物語もきちんと作られているから面白く読める。でも萌えない。けれども特に消化不良感もない。これはこれでよいのだと思う。


ちなみにキーフレーズをきっちり決めてくる小説というのは大概ちょっとオサレなかほりがするか、ダサダサなかほりがするかのどちらかなのだが、この作品は前者だった(後者の代表選手は間違いなく鹿住槇先生だろう)。オサレとか金持ちとか嫌いなのにこの世界だと許せるのはなぜだろう?あ、BLだからか。