『箱の中』『檻の外』/木原音瀬

箱の中 (Holly NOVELS)

箱の中 (Holly NOVELS)

檻の外 (Holly NOVELS)

檻の外 (Holly NOVELS)

あまりにも評判がよいので、なんとしても2006年中に読んでおかなければならないような気がしていた2冊。

私が木原音瀬のどこを凄いと思うかというと、BL作品であるにもかかわらず、「侘びさ」「みっともなさ」「恥ずかしさ」「惨めさ」などの最上級のネガティブ要素をこれでもかと畳み掛けてくるところである。特に「みっともない」を強く感じる。現実で嫌というほど味わわされる(私だけか!?)嫌な感情を、小説中の人物を通して追体験させられる、その読書体験の厳しさ。たまんないんですよね、そこが。衣服に自分の尿を引っ掛けしまいその惨めさに涙する受なんて、木原音瀬にしか書けないと思う。書こうと思うBL作家も、今後、たぶん出てこないと思う。
当たり前のことなんだけど、「BLの登場人物も、生きて、食べて、排泄をするんだな」なんてしみじみ考えてしまったことよ。このしみじみの仕方って、間違ってますけど。そういう意味で、「喜多川という男の人生を描き切った」という作者の感慨には、納得させられるものがありましたね。ああ、確かにこれは人生である、と。
BLは没個性的な作家も少なくないので、この「〜にしか書けない」というのは非常に重要なポイントですよね。私はそう小説を読むほうではないけれど、この人の小説が特別巧いとか文章が美しいとか、そういうタイプでないことは分かる。でも、不思議と、固く熱い魂を感じる作家です。

本書についてはいろいろ思うことはありますが、とりあえず、同じ男女入り乱れてのドロドロでも、一人「本当に一途なひと」な存在するだけで、大分印象が違うものだな、と思いました。ボーイズラブの基本って、「何があってもお前だけ」なんですよ。人間関係の絶対性を描こうとすると、ボーイズラブっぽくなる。だからこのお話も、ちゃんと私の中ではボーイズラブとして認識されています。コミックの『窮鼠はチーズの夢を見る』では、全員がいやなヤツだったので、まったく共感できなかったんですけど。この作品に出てくる、攻の喜多川はかなりいいですね。特に私が好きなのは、子どもの穂花に「けっこんして」と言われて、喜多川が本気で困ってしまった、というエピソード。ここが素敵だと思います。

草間さかえの挿絵もよかったです。この人のように、十年経っても見られる挿絵を描いて欲しいと、いつも思っています。本文中で、挿絵画家に関して編集者が話す部分がありましたが、あのあたりは作者の考えなんですかね。結構興味深く読みました。木原音瀬の小説に合う挿絵って、初めて見たかも。国枝彩香の『嫌な奴』も結構よかったと思いますが。

それにしても木原音瀬という作家は、人気がありますよね。もうずいぶん前から、まんだらけでは書籍化されていない彼女の作品掲載の雑誌が高値で売買されています。ボーイズラブの読者って萌えだけに走らない人も多いんだなぁ、といつも意外に思っています。


小説として一番おもしろかったのは、『脆弱な詐欺師』ですかね。どうでもいいけど、国立に受かるなら、娘はそれなりに出来がいいんじゃないかしら。