『三村家の息子』/明治カナ子

三村家の息子 (ミリオンコミックス Hertzシリーズ)

三村家の息子 (ミリオンコミックス Hertzシリーズ)

雁須磨子先生が帯を書いてらして、絵柄の雰囲気も似ていたので同じような作風なのかと思って読んでみたら全然違った。この息苦しさは何なのだろう。急き立てられるような息苦しさではなく、クラゲのような半透明でぶよぶよとしたものでジワリジワリと窒息させられていくような息苦しさ。雁須磨子先生の漫画の世界はなんだかだいってわりといつも晴れていそうなのだが、明治カナ子先生の描く世界の空には水分をギリギリまで含んだ重苦しい雲が常に垂れ込めていそうだ。


たぶんベタの使い方とトーンワークと目の描き方(妙に虚ろ)がこの閉塞感の表面上の理由なのだろうが、作品の設定自体も閉鎖的なものが多い。表題作の「三村家の息子シリーズ」(4編)は「土地は広いけど町は狭い」と言い表されるような閉鎖的な田舎の町が舞台、「雨に酔う」は雨音に包まれた一軒家が舞台、「もしたられば」は遠い田舎の一軒家が舞台、「彼は独りで」にいたってはもう舞台とかそういう問題ではなく主人公が内へ内へとズブズブ沈んでいってしまう物語。この「彼は独りで」、たった10ページでこんなにどうしようもない気持ちにさせてくれるんだからすごい。オチは少し読めたけど、読めたところでどうしようもないものはどうしようもない。


「彼は独りで」以外は物語自体が痛いわけではない。実は結構明るいような気もする。けれども読んでいると言いようのない重苦しさと孤独感が纏わりついてきて、手の届きそうで届かない部位にうっそりとこびりついていくような感覚に襲われる。さっぱりとした絵柄なのに性器や結合部の描き方が妙にリアルというギャップも重苦しさを倍加させているのかも。コミカルな場面が妙にかわいらしいところもカラ元気みたいで逆に不安感を煽られる。依田沙江美先生が完全にダークサイドに堕ちたらこういう漫画を描くんじゃないかしら、となんとなく思った。


あとがきによるとボーイズでは初めてのSMなしの本らしい。ということは普段はSMなのか…。この閉鎖的な作風にSMという嗜好は確かに似合うかもしれない。似合うかもしれないが、SMか…。他の作品も読んでみたいけど、SMは躊躇われる。光彩のSMなんて怖いよ…。この本(ISBN:4860930355)なんて町田ひらく早見純と並んでるんですけど、そんなお人なんですか?あわあわ。


とりあえず学ラン姿の弓くんはかわいいです。好み。三村家の息子シリーズがめちゃくちゃ気になるので早く続きを!でも初出のペースを見る限り、随分先の話になりそう。掲載誌が季刊なのは痛い。